先日、福岡市東区、香住ヶ丘にほど近い地域で、建築雑誌『ディテール』を約50冊、まとめて買取させていただきました。

1970年代から1980年代の号を中心に、住宅、別荘、建具、階段、照明、コンクリートなど、建築の細部について掘り下げた特集が並びます。

今回は『ディテール』だけではなく、一般書もあわせてお譲りいただきました。

こうして専門家の方が長い時間をかけて集め、仕事のそばに置いてきた本をまとめて拝見できることは、古書を扱う私たちにとって、とてもありがたい機会です。

専門家の本棚は、ひとつのアーカイブでもある

専門書を整理するとき、現在の市場価値が高いものや、希少な号だけを残すという考え方もあります。

もちろん、それもひとつの方法です。

一方で、専門家の本棚を見ていると、一冊ごとの価値だけでは捉えきれないものがあると感じます。

仕事の途中で何度も開いた本。
必要なディテールを確認するために残していた雑誌。
いつか参照するかもしれないと、本棚に置き続けてきた資料。

そうしたものが数十年分集まることで、その人が仕事をするためにつくってきたひとつのアーカイブになります。

今回お譲りいただいた『ディテール』にも、経年による傷みや、一部に綴じが弱くなっているものがありました。

古書として状態を見ることは必要です。

しかし、状態だけを見て「古い」「傷んでいる」と判断してしまえば、その中に残されている資料まで失われてしまいます。

私たちは、本としての商品価値と、資料として残す意味をできるだけ分けて考えたいと思っています。

紙の本を残す意味は、これから変わっていく

AIやデジタル化が進み、多くの情報を瞬時に検索できるようになりました。

これからデバイスがさらに進化すれば、紙以上に読みやすく、調べやすい環境も生まれてくるでしょう。

そのなかで、紙の本を取り巻く商売が簡単になるとは考えていません。

それでも私は、紙の本にはまだ大きな可能性があると考えています。

本棚から取り出せば、すぐに開けること。

ページをめくりながら、探していたものとは違う情報に偶然出会えること。

紙の質感や印刷、装丁、経年した本の匂いまで含めて、その時代のものとして残っていること。

そして一部の本は、単なる情報の容器ではなく、長い時間を経て資料や文化的な資産として評価される可能性もあります。

デジタルと紙のどちらが優れているかという話ではありません。

情報として残すことと、物として残すことには、それぞれ異なる意味があるのだと思います。

捨てられるはずだった本を、もう一度見る

古書買取の仕事をしていると、「処分しようと思っています」という言葉をよく耳にします。

すべての本を残すことはできません。

市場でほとんど需要がなくなったものもあれば、物理的な状態から次へ渡すことが難しいものもあります。

だからこそ、処分する前に一度見ることが重要だと考えています。

そこに何が残されているのか。
誰かがもう一度必要とする可能性はないのか。
一冊では難しくても、まとまりとして残す意味はないのか。

古書店の役割のひとつは、その判断をすることだと思っています。

今回のような建築雑誌は、実際に建築専門の古書市場でも独立した取扱分野となっており、『ディテール』も専門店で扱われている建築雑誌のひとつです。

専門家から、これから学ぶ人へ

今回お預かりした本も、これから一冊ずつ状態と内容を確認していきます。

次に手に取るのは、現役の建築家かもしれません。

設計事務所で働き始めた若い方かもしれません。

あるいは、これから建築を学ぶ学生や研究者かもしれません。

誰が手に取るかは分かりません。

ただ、ある専門家の本棚に何十年も残されてきた資料が、古書店を経由して別の誰かの仕事や学びにつながっていく。

その流れをつくることができれば、古書を扱う意味はまだ十分にあると考えています。

私たち自身も、お客様から本をお預かりするたびに、次の方へ渡すところまでがこの仕事なのだということを忘れないようにしたいと思います。

本を買い取ることは、単に物を引き取ることではありません。

誰かが集め、読み、仕事に使ってきたものを一度受け取り、その中から残すべきものを見つけ、必要とする人へもう一度渡していく。

今回並んだ約50冊の『ディテール』を眺めながら、そんな古書店でありたいと、あらためて考えました。

福岡の古本出張買取ヘルベチカでは、建築書・建築雑誌・美術書・写真集をはじめ、研究室や建築事務所、デザイン事務所などの蔵書整理にも対応しています。福岡市内・近郊は出張買取、遠方からは宅配買取をご相談いただけます。

処分するか迷っている本についても、まずは本棚の写真からご相談ください。

大西 健
古書店「ヘルベチカ」店主。

福岡を拠点に
建築・デザイン・写真・美術など
視覚文化に関わる古書 を扱っています。

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