福岡県遠賀郡岡垣町のお客様より、メールでお問い合わせをいただき、出張買取に伺いました。
事前にお送りいただいた蔵書のお写真には、美術展の図録、作品集、絵画や工芸に関する本、制作のための技法書などが並んでいました。
いずれも、お母様が長い時間をかけて集めてこられた、100冊を超える蔵書です。
美術館を訪れるたびに図録を持ち帰り、そのときに出会った作品や考えを手元に残していく。そうして少しずつ形づくられた本棚だったのだと思います。
ご訪問の際には、お母様が制作された押し花絵も拝見しました。
花の色や形をただ残すのではなく、一つひとつを見つめ、時間をかけて画面へ置いていく。その作品には、静かな集中と、確かな感性がありました。
率直に、とても心を動かされました。
作品と蔵書は、同じ時間から生まれている
作品を拝見したあとに蔵書を手に取ると、両者は自然につながって見えました。
どのような展覧会へ足を運ばれたのか。どの作家に惹かれ、どの技法を学び、何を自分のなかに残してこられたのか。
本棚に並ぶ本は、単なる資料の集まりではありません。その方が見て、考え、つくってこられた時間の記録でもあります。
美術書や展覧会図録には、作品図版だけでなく、作家の言葉、当時の研究、展覧会という一度きりの場で交わされた視点が残されています。
特に展覧会図録は、会期が終われば手に入りにくくなるものも少なくありません。後から必要とする研究者や学生、作り手、収集家にとっては、代わりのない資料になることがあります。
今回お譲りいただいた本にも、それぞれに次の役割があると感じています。
一冊一冊を大切にされてきたこと
蔵書を拝見して印象に残ったのは、一冊一冊が丁寧に扱われてきたことでした。
本を見れば、そこにどのような時間が流れてきたかが分かります。
何度も開かれた本。必要なときに取り出され、また元の場所へ戻された本。美術館で手に入れたまま、きちんと保管されてきた図録。
傷みの少なさだけではなく、本との向き合い方そのものが残されています。
お母様が大切にしてこられたものは、作品や本だけではなかったのだと思います。
ご子息にも、終始親切にご対応いただきました。ものを丁寧に扱うことと、人に丁寧に接すること。その二つは別のことではなく、同じ姿勢から生まれるものなのかもしれません。
このたび、お声がけいただき、ご自宅へ伺えたことをありがたく思っています。
お預かりした蔵書を、次に必要とする方へ
古書店の仕事は、本を買い取ることで終わりません。
誰が、どのように大切にしてきた本なのか。その背景を受け取り、次に必要とする方へ手渡していくところまでが仕事だと考えています。
すべての本に同じ価値があるわけではありません。しかし、長く大切にされてきた蔵書には、市場価格だけでは測れない時間があります。
その時間を忘れず、一冊ずつ内容と状態を確認し、それぞれにふさわしい形で次の読者へつないでまいります。
お母様が見て、集めて、手元に残してこられた本が、これからまた別の誰かの目に触れ、新しい時間のなかで役に立つ。
その橋渡しを任せていただいたことに、責任を感じています。
このたびは、大切な蔵書をお譲りいただき、誠にありがとうございました。
福岡県で美術書・展覧会図録・技法書の整理をご検討の方へ
ヘルベチカでは、福岡県内を中心に、美術書、展覧会図録、作品集、デザイン書、建築書、写真集、工芸書などの出張買取を承っています。
ご実家の整理、遺品整理、長年集めてこられた蔵書の整理なども、内容を拝見したうえで対応しています。
冊数が多い場合や、持ち運びが難しい場合もご相談ください。まずは本棚や蔵書のお写真を、メールまたはLINEでお送りいただければ、事前に内容を確認いたします。
大西 健
古書店「ヘルベチカ」店主。
福岡を拠点に
建築・デザイン・写真・美術など
視覚文化に関わる古書 を扱っています。


