受け継がれた一冊の行方について
──アラーキー『センチメンタルな旅』1971年初版
本には、書かれていない来歴があります。
どこで開かれ、どこで閉じられ、
どんな時間をまとって、また別の場所へと渡っていくのか。
今回迎えたのは、
アラーキーこと荒木経惟による写真集『センチメンタルな旅』の初版(1971年・限定1000部)。
写真史の節目に位置づけられる特別な一冊です。
この本が巡ってきた場所
この本は、市場で静かに佇んでいました。
多くの本が集まり、さまざまな時間が交差する場所。
誰かの生活を背負いながらも、個人名は消え、ただ“本だけ”が残される空間です。
そこで出会った一冊は、
紙の縁やカバーの質感に、長い時間の気配をほんのりと宿していました。
触れた瞬間に、その残された温度が確かに伝わってきます。
この本が持っていた気配

1971年の紙は、指に触れると少しだけ乾いていて、
けれど、薄い湿度のようなものを含んでいました。
写真に写り込む空気には、
当時の生活のざわめきと、透明な光の揺らぎがあります。
静かなページをめくるたび、時間の粒子がふわりと立ち上がる。
ヘルベチカが “選び取る理由”
ヘルベチカでは、本を単なる再販品として扱っていません。
どの本が残り、なぜ今ここへ巡ってきたのか。
その背景にある“必然のような連なり”を大切にしています。
市場での出会いも同じです。
無数の本が並ぶなかで、
「まだ旅を続けるべき本」が静かに立ち上がる瞬間があります。
この一冊には、その気配がありました。
■ アーカイブとしての記録
本書の状態や装丁の写真は、商品ページにて記録として残しています。
巡ってきたものを、次の誰かへ丁寧に手渡すためのアーカイブです。
リンク:
[アラーキー『センチメンタルな旅』1971年初版|商品ページを見る]
■ おわりに
本は、誰かの生活に紛れていくものではなく、
気配のように残り続けるものだと思っています。
この一冊が、またどこかで
静かに息をしてくれることを願っています。
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この記事は、ヘルベチカの実際の買い取り業務に基づき、
日々一冊ずつ本と向き合う中で形成された判断基準をまとめたものです。


