本にも、思想の来歴があります。
どこで読まれ、どこで閉じられ、
どんな時間の中で沈黙し、
そして、なぜ今ここに巡ってきたのか。
今回迎えたのは、
吉村順三を特集した
『日本現代建築家シリーズ7』(別冊新建築・1983年刊)。
住宅建築を中心に、公共建築、家具、照明、
そして設計思想そのものを記録した、204ページの特集号です。
この本が巡ってきた場所
この本もまた、市場の中にありました。
多くの本が集まり、
かつての持ち主の生活や記憶が薄れていく場所。
建築家の特集号という性質上、
華やかな写真集のように扱われることはなく、
静かに棚に収まっていた一冊です。
けれど、手に取った瞬間、
紙の厚みとページの密度から、
これは「読むため」ではなく「残されてきた」本だと感じました。
この本が宿している気配

吉村順三の建築は、
強い言葉を必要としません。
光の入り方、
床と壁の接点、
人が自然と立ち止まる距離感。
それらが、図面と写真、
そして抑制された言葉で淡々と記録されています。
ページをめくるほどに、
建築とは表現ではなく、
人の生活に対する態度であるということが、
静かに伝わってきます。
辞退という選択が残したもの
本書には、
「皇居・新宮殿造営計画」を辞退した経緯も収録されています。
国家的なプロジェクトであっても、
自らの建築観と一致しないものには関わらない。
その判断は、英雄的でも挑発的でもありません。
むしろ、
建築家としての限界を正確に理解した人間の決断として、
この本の中に淡々と記録されています。
完成した建築だけでなく、
選ばなかった道までも含めて残している点に、
この特集号の価値があります。
なぜ、いま手元に残すのか
私たちは、
本を単なる再販品として扱っていません。
とくにこの一冊は、
一人の建築家の思想が
体系的に記録された資料であり、記録です。
消費されるための情報ではなく、
必要な人のもとで、
静かに参照され続けるべき本。
だからこそ、
状態や装丁も含めて、
「いまの姿」をきちんと残しています。
アーカイブとしての記録
本書の写真、コンディション、詳細は
以下の商品ページにて記録しています。
▶ 吉村順三|日本現代建築家シリーズ7[別冊新建築1983年]
巡ってきたものを、
次に必要とする誰かへ手渡すための、
ひとつの中継点として。
おわりに
建築は、建った瞬間から
少しずつ風景に溶けていきます。
けれど、思想は、
こうして本の中に留まる。
この一冊が、
またどこかの静かな場所で開かれ、
人の思考に、そっと影を落とすことを願っています。
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この記事は、ヘルベチカの実際の買い取り業務に基づき、
日々一冊ずつ本と向き合う中で形成された判断基準をまとめたものです。


